- 2009.11.02
「チェリー」は、おばあちゃん家の犬でした。おばあちゃん家は宮古市の港の近くの大きな酒屋、つまり私の母は酒屋の娘です。兄弟姉妹9人もの大所帯で、家業の手伝いで子ども達が配達をして回るのは当たり前のことでした。

昭和20〜30年代、宮古市がサンマ漁の基地だった頃で、港には大変な活気がありました。漁師さんたちも羽振り良く、お店の脇に一升瓶の木枠を逆さに置いた物を一列に並べ、それを椅子がわりにして飲んだくれ、しまいに大声で怒鳴りあい、胸ぐらつかんでケンカが始まったり...その光景は私も子ども心によく記憶しています。
「チェリー」のことも覚えています。赤っぽい雑種の和犬でした。昔は犬は放し飼いでした。母によくなついていて、時々実家に帰る母に嬉しそうに尾を振って、小さな私にも優しい眼差しを向ける賢い犬でした。母が中学生の頃、チェリーは夕方の配達についてきたそうです。酒屋の子ども達は、お酒だけでなく味噌、醤油なども配達して回ったのだとか。配達を終えた帰り道、チェリーは空の配達袋を持ちたがり、「その袋を持たせてヨ」と要求し、渡さないと怒るのだそうです。袋を口にくわえると、得意になって先頭に立って帰宅するチェリー。母が嫁ぐとき「一緒に連れて行けばよかったのに」とあとあとまで言われたというくらい母になついていたそうです。
夕闇迫る宮古の暗い道を、チェリーと自転車をひく中学生の母の姿が、まるで見ていたように心に浮かびます。チェリーは母の「用心棒」として誇らしい気持ちで先に立って歩いていたのでしょう。
- 漫画家 佐香厚子
- 犬とその飼い主、そして訓練士の心温まる物語「マリエにお手!」(小学館発行)をはじめ、数々の人気漫画を執筆。詳しくはこちら
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